第16回コラム / 音楽「ベートーヴェン ~第九~」

   日本での師走の風物詩として定着したベートーヴェンの「第九」コンサート。
「第九」の正式名は「交響曲第9番 ニ短調作品125」、1824年に完成したベートーヴェン最後の交響曲です。

   「第九」と聞いて最初に思い浮かぶのが、「歓喜の歌」の合唱ではないでしょうか。
「歓喜の歌」は作品を締めくくる「第4楽章」のクライマックスに当たります。歌詞は、ドイツを代表する作家フリードリヒ・フォン・シラーによって書かれた「歓喜に寄す」という詩から3分の1程度を抜粋し、一部、ベートーヴェンが編集した上で曲をつけたものです。


   歌詞の内容は
「すべての人々は兄弟となる。ひとりの友の友となり、ひとりの気高い女性を得られるなど、大いなる幸福に恵まれた人は、歓喜の声をあわせよう!」いうもの。

   ベートーヴェンはシラーの言葉を借りて、「人類愛」と「友人や愛する人のいる人生の素晴らしさ」を高らかに歌い上げる曲を創ったのです。それは、当時としては斬新で画期的な手法でした。ベートーヴェンが「第九」を発表するまでは交響曲と合唱は交わらないものとされていたからです。


   「第九」が世界で初めて演奏されたのは、1824年5月7日。演奏時間はベートーヴェンの交響曲中で最長の63分。この初演は大成功でした。残された記録によると、演奏後に5回もアンコールの喝采が続き、警察官が制止したとされています。
   しかしながら後の評価は良いものではありませんでした。初演からおよそ2週間後、2回目の演奏会が開かれましたが、意外にも客席の半分も埋まらなかったとされています。その後もヨーロッパ各地で何回か演奏会が試みられたが全て失敗に終わってしまったのです。
   その理由として、「第九」が当時としては異例の合唱付きで異質とされたこと、曲が長すぎること、演奏が難しすぎるといったことでした。現在でも難曲として有名な第九。当時は、プロの音楽家養成機関が未整備で宮廷オーケストラの類を除くと「プロ・オーケストラ」は民間に存在していませんでした。そのため、宮廷楽師や独学のアマチュアなどが混在したオーケストラの技術では演奏できなかったのです。こうして「第九」は、ぱったり演奏されなくなり、この状況を知ったベートーヴェンは「歓喜の歌」がある第4楽章を楽器のみの編成に書き直そうと計画していたそうです。初演から3年後の1827年、残念ながら、この曲がまともに評価されることなく彼はこの世を去りました。
そして「第九」はベートーヴェン最後の交響曲となったのです。


   後に、この評価を覆したのが リヒャルト・ワーグナーでした。
幼い頃からベートーヴェンの作品が大好きだったワーグナーは、ドイツの管弦楽団の指揮者に就任したことを機に、念願の「第九」の復活演奏に着手します。ワーグナーは、『ベートーヴェンの時代は楽器が未発達であり、思い描いたメロディをオーケストラに演奏させることができなかったのではないか』と考え、楽譜に改訂を加えました。こうして1846年に開かれたワーグナーの演奏会は大成功に終わり、これ以降、「第九」は「傑作」という評価を得るようになりました。

   日本で初めて「第九」が演奏されたのが1918年6月。徳島県の捕虜収容所でドイツ兵による全曲演奏だとされています。
   その後、1940年12月31日にNHKのラジオ生放送で「第九」が日本ではじめて年末に演奏されました。その理由は「ドイツでは習慣として大晦日に第九を演奏し、演奏終了と共に新年を迎える」といった事でした。しかしながら、ドイツではそのような慣習はなく、NHKの企画担当者が何らかの勘違いをしたのではないか?ということになっています。

   実際に、「第九」が年末演奏の定番となったのは戦後間もない1940年代後半頃。その理由は意外なものでした。当時、日本における交響楽団員の収入は少なく、年越しの生活にも困る状態でした。そのため、年末に開催される演奏会への参加を希望する楽団員が多かったこと。もう1つは、当時のクラッシック演奏会の中で、「第九」は必ず「お客様が入る曲目」で多くの興行収入が見込めたことでした。そのような理由により、日本交響楽団(現NHK交響楽団)が年末に「第九」演奏するようになった事が定例の発端とされています。その後、地方の交響楽団が年末に開催した演奏会も成功したことが全国に広まると、国内で「第九」の年末演奏会が急激に増え「年末の定番」となったようです。そして、年末演奏会に観客が多いのは「友人や愛する人のいる人生の素晴らしさ」を奏でる「第九」に魅了され、新年を迎えるにあたり心美しくありたいと願う人々が多いからではないでしょうか。

   人類愛をテーマにしたベートーヴェンの「第九」。三交不動産「Praise」は市民合唱団とセントラル愛知交響楽団によって毎年12月に開催される「悠久の第九」コンサートを今年も応援しています。

年末はご一緒に「歓喜の歌」を聴いてみませんか。

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「美しい」という基準は人それぞれです。モノ、絵画、写真などに込められた笑顔や風景など世界には美しいものが溢れています。しかしながら、そのどれもが、すべての人に美しいと評される事はありません。Praiseが考える「美しい」とは、より多くの人が心穏やかに素敵だと共感できるものだと思います。Praiseの伝えたい「美しい」が多くの皆様に共感していただけたら幸いです。

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