Interview 01 森をつくるひと。

Interview 01 森をつくるひと。

50年後、豊かな山に育ちますように。

三交ホームの木の家のふるさと、三重県大台町。以前は宮川村と呼ばれたこの地域は、国内でも有数の清流として名高い、宮川を擁する自然豊かな土地です。この町で森林組合に従事する岡本さんにお話を聞きました。

Q.森林組合の仕事について教えてください

私が所属する宮川森林組合の仕事は、大きく二つに分かれます。ひとつは木材を販売する林産事業。もうひとつは大台町の山を育てる育林事業。これらの事業を通して森林の価値を高め、大台町の林業を支援することが私たちの役割です。林業に関わる仕事はさまざまですが、共通するのはサイクルの長さでしょうね。自然が相手ですから、とにかく結果がでるまでに時間がかかる。たとえば育林事業では、苗木を植えて、それがスギやヒノキの人工林でしたら良質の建築材になるように手入れをしていくわけですが、下草を刈ったり枝打ちしたりの作業が大体30年。その木が売れていくまで数えれば約50年の月日が必要です。私は組合に入職して16年になりますが、入ったばかりの頃に植えた木ですら、まだ半分も育っていません。本当に、気が長い仕事だと思います。

Q.今、大台町の林業はどのような状況なのですか?

地主さんの高齢化、後継者不足、燃料価格の高騰などなど。他の地域でも同様の課題を抱えていますが、楽観的な状況でないことは確かです。特に影響を与えているのは国産材の経済性の低下でしょう。外国産の安価な材木によって、国産材では採算が合わないケースが少なくありません。建材以外の用途が少ないことも拍車をかけていますね。たとえば、昔は「足場丸太」というものがありました。家を建てるときの足場なのですが、8メートルぐらいの長い木を使うので商品価値も高かった。けれど今は、代替品が普及して衰退してしまいました。そういったことが積み重なって、林業を専業とする方もずいぶん減っています。
…ただ、林業の衰退は山が荒れることも意味します。人工林は、手入れをしないと林内が真っ暗になって草も生えてこず、山の公益的機能が低下していきます。将来的には、山崩れなどの災害やCO2の吸収など環境的な側面でも悪影響を及ぼす可能性がある。だから、今のうちに対策を打つ必要があるのです。

Q.多様性を持つ森にはどのようなメリットがありますか?

ひとつは、ランニングコストを下げることができます。例えば、調査によってスギやヒノキが育ちにくい場所があるとしますよね。そこに適した広葉樹を植えるわけです。モミノキ、ケヤキ、イロハモミジなど、種類はさまざま。高さが異なり、互いが共生できるに配慮して。すると、成長するに従って森に高低差が生まれ、自然と山に光が入ります。冬になれば葉が落ちて大切な肥料にもなる。人の手が必要ないんですよ。逆に、適した土壌にはスギやヒノキをちゃんと植えて、良質な木を育てていく。そうやって、山の環境に合わせた森をつくることで、山の保全にかかる費用を抑えつつ、三交ホームさんなどにお届けする木を育てられるのです。
それに、もともとこの地域の自然環境はすごく多様なんですよ。自生種の植物が約500種類もある。これは近県の山林を見てもずいぶん多いと感じます。つまり、大台町の山は一様な木を育てるのではなく、多様な木を育てるポテンシャルを持っているんですね。そういう意味では、私たちが考える森づくりは、地域の特色にあった選択肢だと思います。

Q.植樹する際に気をつけられていることはありますか?

最近、木の遺伝子について研究が進んできまして、地域によって性質が異なることがわかってきました。同じ“イロハモミジ”であっても、太平洋側と日本海側でそれぞれの環境に適した特徴を持っているということ。広葉樹の苗木の産地というのは、関東の埼玉県とか九州の大分県とか大きな産地がありますが、そこの苗は、不特定地域から採取した種子から作られた可能性があります。その苗木を大台町に植えてしまうと、将来、この地域の遺伝的な多様性を損なう恐れがある。だから、今植樹する木の苗は、宮川の源流である大杉谷の自然林から種を採取して、そこから育てています。種を採る母樹を明確にして、地元で育てて、この山に戻す。それが最適な森をつくる意味でも、大台町の自然を守るためにも重要だと考えています。

Q.結果がでるのは何年先になりますか?

今植樹している木が成長して50年。森の最終の姿が見えるのに、最低100年は必要でしょうね。おそらく私は生きていません(笑)。林業は、本当に時間がかかる仕事だといつも思います。ただ、結果を見られないとしても、50年後、やっぱり失敗だったね、という事態を避けるために今できることもたくさんあります。特に、植樹計画は相当綿密です。京都の大学とも連携し、土壌分析から木の選定にいたるまで、これまでは職人の勘で行っていた部分に科学的なアプローチを入れました。さらに共同研究の結果、虫害が出やすい地域を特定。これまで安価なチップにしていた虫食い材を合板にすることに成功しました。三交ホームさんの木の家にも使われています。
山を取り巻く環境は、依然として厳しい状況です。私たちが立てた計画も、上手くいくかどうかは神さまにしかわかりません。けれど、まだまだ捨てたもんじゃない。この森には大きな可能性がある。森林組合のひとりとして、またこの町で生まれた住民のひとりとして、それは心から信じています。

宮川森林組合 森林振興課長
岡本宏之さん
大台町生まれ。大阪で会社員として働いた後、1998年に帰郷し、宮川森林組合に入職。大学との共同研究をはじめ、さまざまな角度から大台町の山を観察し、次世代の山づくりを行っている。